「弦の会」掲示板

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弦114号合評会1) 長沼宏之

2023/11/26 (Sun) 13:59:35

弦114号合評会(1)  11月12日開催
1.忘れ雪  小森由香
わずか47歳で急死した母の死を受容できず、鬱を発症した一人息子。彼は大学を休学して山形の母の実家に帰る。祖父母、曾祖母に暖かく迎えられ、雪かきに明け暮れるうちに再生する様子を描く。死者との別れの繰り返しを忘れ雪になぞらえる。また曾祖母の苦難の人生を教えられる。雪との共生、雪は自然に逆らわない生き方を象徴する。彼は母の死を受容し、生きる希望を取り戻す。読後感もよい。

2.我儘なお姉さん  国方学
終戦時、朝鮮からの引揚者の苦難を語る家族史。ドキュメンタリーとしても貴重である。
植民地朝鮮でエリート銀行員として優雅な生活をしていた家族が、子供8人を連れて引き揚げて、開拓農民として極貧の生活に陥る。家族が団結して懸命に生きる中で、年の離れた長女だけが我儘な性格で東京の叔母の家で暮らす。彼女の異色ぶりが活写される。やがて成人して独立する子供たち。きずなを守るために家族文集を発行する。これが実に数百号に達したというのだから、尋常ではない。文芸の力である。この文集のなかでもあっけらかんとして周囲を気にしない長女。この生き方も一種の生きる力だろう。

3.春の裂線  市川しのぶ
出版社の編集長として独身で頑張ってきた40代の女性が、愛人のカメラマンとの関係に結論を出そうと考えて 伊豆の古寺に古仏を訪ねる旅に出る。彼女の心象がていねいに描かれる。迷う彼女は、妻を亡くして追慕の旅に出た男性と寺で行き合い、彼の言葉に心を動かされる。「いつかは旅を終わりにして生きることを決心しないと」 いわゆるキャリアウーマンの生き方、悩みを示唆している。結論は出さないが、生きる希望を感じさせる。作者の年輪がにじみ出ている。


4。あり   高見直宏
アリの生態を描くと見せて、実は寓話である。何も考えずひたすら列から離れず働く一匹のあり。彼はふとした機会に群れから離れて、天敵に捕食される危険を冒しながら、貴重な収穫を得る。するとごく自然に彼は列の先頭に立たされて、リーダーになっていた。無難に生きるのではなく、みんなと違う生き方、つまりハイリスクを執ることによりハイリターンを得る。いまさらながら実感を伴って会得させられる。起業の奨めか。

5.ガラスの壁  長沼宏之
 日本企業ににおける女性の、男性に負けない生き方としてのキャリアウーマンを取り上げている。一見企業戦士として男性に伍しているが、内情は目に見えない壁がある。仕事以外の何かを犠牲にしている。子育てを実母、つまり子どもにとって祖母に委ねる、夫が主夫を勤める、家庭を持たず独身を貫くなど。その実態を描こうとしている。あからさまには書かれていないが、根本は家庭において夫婦が真の男女平等になっていないこと。さらにその原因は夫の長時間労働が当然になっている企業環境にある。その中で苦闘する意欲ある女性たちへのエールでもある。理屈ではなく、まず小説として読ませる工夫が感じられる一編である。

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